チョウ目 ヤママユガ科 クジャクヤママユ(Saturnia spini)


クジャクヤママユのイラスト。
東ヨーロッパから西アジア周辺に生息する大型の蛾。羽を開くと約9㎝にもなる。
ヤママユガの仲間によくみられる目玉模様(眼状紋という)が本種にもしっかりある。
この模様は鳥など天敵への威嚇に役立つとされており、実際効果があるんだとか…
クジャクと名前につく割に華やかではない色味の本種だが、これはもともとドイツ語でNachtpfauenauge、「夜のクジャクの目」という意味の名前がついていたものを和訳したためである。
元のドイツ語を見れば、クジャクのような華やかさではなく目玉のほうにフォーカスしてつけられた名前なのだとわかる。
ちなみにクジャクヤママユと和名が定められる前は楓蚕蛾と呼ばれていた。色だけ見ればそっちのほうが「らしさ」はある。
さて、日本に生息していないにもかかわらず、このクジャクヤママユは結構有名である。
というのもこのクジャクヤママユは日本の国語の教科書に掲載されている、ドイツ文学者のヘルマンヘッセ著「少年の日の思い出」のなかで重要な意味を持つ昆虫だからである。(実はかれこれ70年以上掲載されているという驚きの作品でもある。)
なんならこのページにたどり着いた人は大体それきっかけで調べようとしていたのではないだろうか…
「そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな」はあまりにも有名。
知らないという方はぜひ一度読んでみてほしい。
この作品でしか味わえないセピア色の空気感と胸が千切れるような思いを体感できる。
「少年の日の思い出」は数多くの虫好き蛾好きその他色んなフェチを生み出してきた名作であるが、この作品に出てくる「主人公がアレしてしまった蛾」は、いったい何蛾なのか、和訳された当時(1930年代)はあまりよく分かっておらず、それゆえ最初は標準和名ではなく「楓蚕蛾」という名前が当てられたのだった。
1950年代になると、日本のドイツ文学者、岡田さんがドイツの文献などを調べてNachtpfauenaugeと呼ばれる複数の蛾の中からサイズや特徴が「主人公がアレしてしまった蛾」らしき蛾を3種まで絞った。
最終的にポケットに入ることなどや、主人公を魅了した希少性などを鑑みて、ドイツではMittleres Nachtpfauenauge…中型の夜のクジャクの目と呼ばれていた本種、クジャクヤママユがその蛾である、と結論付けられた。
この時候補から外された他の2種は「オオクジャクヤママユ」と「ヒメクジャクヤママユ」である。
以降、楓蚕蛾ではなく「ヤママユガ」と訳されたものが使われることになった…が「ヤママユガ」だと日本に生息する別の蛾を指す名前なので若干惜しさを感じる。
なお、後に岡田さんは昆虫沼にどっぷり浸ることになったそうな。

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